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【本】レビュー『TKC会計人 業務の未来設計』

  • user 内田
  • time 2025年9月27日
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TKC会計人 業務の未来設計』TKC全国会 TKC出版

2025年7月発刊、TKCから届きましたので読んでみました。(一部、TAPの用語への変更があります。)

〇巡回監査での大きな負担を避けるための10の心得
1.業務上の境界線を引く
営業担当者は関与先への親切心から、先方がやるべき業務を、そうであると知りつつも受けてしまう傾向にあります。これが営業担当者を追い込み疲弊させてしまうのです。この業務上の限界線を、関与する最初の段階で、相手方に良く理解してもらう必要があります。オーバーサービスをやっている営業担当者から業務を引き継ぐスタッフは、全くやりきれない思いでため息をつくことになります。既存のお客様については、根気よく、時間をかけて説得しなければなりません。
2.FXクラウドシリーズによる自計化
お客様の経理担当者を一定の枠の中にがっちり入れてしまうこと。TKCのFXクラウドシリーズで自計化し、お客様の経理を徹底的に合理化してしまい営業担当者の負担が減ります。お客様は、期せずして従業員の教育訓練が実施されるのですから、内心喜ぶでしょうし、そのために経営者にしっかりと説明し、自計化に対する理解を得なければなりません。システム導入をためらう経営者は、FXクラウドシリーズによる自計化がもたらす経営改善の価値をいまだ十分に理解しておりません。費用増加よりも導入による経営改善の効果の方がはるかに大きいのは間違いないので、顧問契約には導入を条件としましょう。
3.関与先の内部けん制により不正を起きないようにする
例えば、同一人が起票し現預金出納するというのをやめさせて出納責任者と起票者を別人にする、現金売上はその日のうちに銀行に預ける、小口現金を廃止してクレカ決済とする、などITを有効活用しながら複数の眼が入るように、関与先に内部けん制の仕組みを導入します。これによって関与先は、従業員の着服行為を防ぐことができますし、不明金を防ぐことにより営業担当者の悩みも減少されます。
4.証憑保存機能の積極活用
TKC会計人は監査の容易性を確保するため、関与先に対して証憑書類と伝票に共通の一連番号を入れるよう積極的に指導してきましたが、直近では電子帳簿保存法の施行に伴いクラウド会計システムの導入により証憑書類と伝票の対応を実現するよう指導して、関与先内部の自己監査の効果を上げ、営業担当者の手続省略の大きな手助けとなります。
5.経理の初期指導/継続指導を実施して関与先の経理担当者を育てる
関与先の経理担当者に正規の簿記の原則を叩き込むこと。いまだ関与先の簿記会計の無知に付け込んだ会計事務所による起票(入力)代行業務は大きなマーケットのようです。しかし、この業務が関与先の会計帳簿の記帳力を低減させ、会計で会社を強くする機会を関与先から奪うことになっていることは間違いありません。関与先の経理担当者を育てながら、営業担当者の過重労働を避ける工夫をして、TKC会計人の本来業務を実践するための知識とスキルを身につけていきましょう。
6.事前確認・巡回監査のための所要時間の標準化
標準時間で終わらせるため関与先を指導し改革していくこと。3時間で完結する会社、1日みっちりやる会社など、標準時間を決めてその範囲内で終わるよう段取りを立て、関与先をそれに順応させます。この点で、私たちは自己の勇気と信念とを磨くべきです。関与先との接触の中で、密かに自分の指導力や説得力に磨きをかける楽しさを知りましょう。改善点を伝えた時に「いや、そのためにおたくを頼んでいるのだ」と答える経営者には、税務会計の専門的サービスを頼むことと、初歩的な単純事務を頼むこととは別であることを、分かりやすく理解させなければなりません。
7.補助管理・部門別管理を積極的に導入
売上や仕入その他あらゆる勘定科目について、その関与先の業種・規模等に応じた有用な経営情報を引き出すために得意先別管理・口座別管理・部門別管理を検討し、設定次第で推移グラフ、前年比較などさまざまな経営情報を提供することができます。経営者はこうした情報を求めており、FXクラウドシリーズを手放せなくなるのです。こうしたシステム設計の工夫が、巡回監査における異常点の効率的な発見に有効な手段となり、業務品質を維持しながら過重労働を防ぐことになります。
8.関与先ごとの正しい監査手続きを選び異常点監査を行う
仕訳全部、証憑全部などすべて漏れなく監査することは時間も人手もかかりすぎて過重労働になりうるので、関与先の内部けん制制度の活用と、経理担当者の能力、FXクラウドシリーズによるレベルによって適切な巡回監査の手続きを選択しましょう。①事前確認などによる全体把握・証憑突合・異常点の抽出②重点項目を効率よく監査するための準備③現場に赴いて最終的な事実確認④必要に応じた関与先の指導、を行っていきましょう。
9.経理の自動化(訂正加除仕訳の低減)
FXクラウドシリーズの銀行信販データ受信機能、仕訳辞書、仕訳連動、証憑保存機能等さまざまな経理の自動化を推進する機能を使いこなしましょう。「1日数分間ですから、この手順でやってみてください」と経理の仕組化・自動化を推し進めていきましょう。こうしたことの積み重ねが訂正加除仕訳の低減を実現しましょう。
10.タイムマネジメント(時間管理)の実践
計画実施の不断の吟味。そもそも時間分析と計画立案が、世界的水準の会計事務所では、各監査担当者の重要業務となっています。日報作成と時間分析不断の工夫を行う事で自身の成長を実現できます。具体的には①個別の関与先の状況を十分に分析して巡回監査計画を立てる。②スケジュールに監査日を登録する。③業務日報で日報を作成する。④時間管理システムで時間分析を行う。という4つです。

私たちはこれから、人口減少経済の中で、専門家にふさわしいスタッフの熟練とそれに見合う高い給与を実現し、新しい働き方にも挑戦することになります。ときに不良関与先の契約解除も必要になるでしょう。世界第一級の会計事務所をつくり、スタッフが世界水準の営業担当者に育つため、今まさに、過重労働に対しての本音の改革を実施するときなのです。

〇事務所方針の決定と周知、具体的実践まで
1.事務所代表の決意
事務所の命運を決めるのはスタッフでもなければお客様でもなく、代表者自身です。自ら熟慮を重ねて事務所の方針を決定して、計画の徹底実施を決意する。そしてスタッフが共鳴するよう説得してお客様にも周知を図るのです。所内での脱落者が出ないように、一つ一つの項目を数カ月ずつの期間に分けて計画、実施します。導入するお客様の優先順位を決めて、誰でも実施できるようスタッフの意見も聞きながら手順を決めていきます。
2.スタッフの理解を得る
全てを代表者一人で独断するのは危険ですが、事務所の命運を分けるような事の決断は代表者しかできませんし、スタッフの理解がないと空回りするばかりです。スタッフとの協議はガッチリやらねばなりませんし、方向を決定したら断固としてやるという決意で臨みます
一方で具体的なやり方についてはスタッフの意見を大いに取り入れて実施します。目標・目的は代表が決定し、実現するための具体的な手法はスタッフの意見を考慮して計画するのです。この際、口頭による指示だけでは失敗します。理屈よりも過去の習慣に人は縛られる傾向があるからです。ぶれない運動・行動にしていくためには、事務所の方針/方向性は文書化して、全員に共有配布します。また思考省略や手抜きを防止するためにも監査計画書やチェックリストを作成して活用し、巡回監査で月次決算が完結する仕組みを習慣化しましょう。
3.お客様への導入
お客様への指導ですが、御用聞きスタイルを取ると上手くいきません。お客様の意向は現状維持だったり、想定外の要望だったりします。お客様の健全な成長発展を望み、税務会計の分野で最良の選択を提案できるのは、我われ会計事務所であるとの信念を持ち、間髪入れずに指導しましょう。お客様を不安にさせないように「新しい仕組みを導入しますがご安心ください。便利になりますよ。社長、奥様、部長様、いつでも業績が分かるようになりますよ」と声をかけ、具体的な導入は、無理なく、分かりやすく、便利になったなぁ、と実感できるよう工夫しましょう。

〇所内の体制づくり
1.職員研修・OJT
時代変化に対応した情報やさまざまな知識の習得を目的とした体系的・継続的な研修を、職員に受講してもらうための環境整備は、事務所にとって最も重要であるものの一つです。体系的・継続的な研修として「職員研修プログラム」を開発し提供しましょう。事務所の付加価値業務を行うためには、職員の養成が必然です。
また監査担当職員の巡回監査の現場実践力強化の手段としてOJTが有効で、ロールプレイングなど、現場実践力を強化できることが期待できます。
2.所内会議の進め方
所内会議を月初に行っている事務所は多いかと思います。今月の決算申告予定の確認、システムバージョンアップ、企業防衛推進会議(生命保険加入推進)、研修予定の確認などさまざまありますが、クラウド推進、Peppol推進、巡回監査率、継続MASや書面添付の推進状況なを会議に入れることで、経営革新の進捗状況と今後の対策を練ることができます。成功例や失敗例を話し合えば工夫が生まれるでしょう。また、会議の進行や書記などをスタッフが行えば、ファシリテーション(会議進行力)の技術も身につけることができます。
3.人事評価制度
時代に対応した巡回監査を基礎に、税理士の4大業務を実践し、高付加価値が達成できれば、1社1社の報酬単価を上げることも可能になり、スタッフの待遇改善につながりますし、そこで人事評価制度の整備が求められます。給与・手当や賞与、昇給とどう関連付けるかは事務所によって異なりますが、人事評価の指標に事務所方針を落とし込めば、組織とスタッフに方向性を与えることができます。「事務所方針」⇒「具体的な行動と目標」⇒「人事評価の指標」⇒「自己評価・客観評価」⇒「処遇」の連動が、組織とスタッフの行動と事務所の未来を具体的につなぐことにもなるのです。
事務所の現状と経営方針に合致した人事評価シートを作成して、定期的にスタッフと個別面談することで、自己評価と客観的評価の差異を確認すると同時に、各自が抱える課題や悩みなども共有して、今後の業務に活かします。人事評価の指標は、人材育成や組織の方針をよく吟味し、普遍的な指標と短期的な戦略的指標をバランスよく選びましょう。

〇経営者と「顔の見える関係」を築くこと
「TKC会報」2024年1月号で、坂本TKC全国会会長は、10年後の巡回監査や中小企業支援の在り方を、以下のように示されています。
「これから1~3年くらいだとあまり違いを感じないかもしれませんが、10年のスパンで考えたら、業務形態が劇的に変わっているはずです。たぶん巡回監査日の前日までにはAI等で形式的なチェックは終わっていて、今まで3時間掛かっていたものが1時間で終わる。そうなると残りの2時間をどう有意義に活用できるかという話になってくるわけです。デジタル化で人との関りがどんどん希薄になっていく中で、経営計画策定会議や金融機関との決算報告会などを含めて、経営者との対面に多くの時間をかけることによって生じる”顔の見える関係”がここでも非常に大事になってきます。そうなのであれば、TKCシステムを完全導入しながら、できるだけ早くそのような業務形態に舵を切るべきなのではないでしょうか。」
経営助言の本質は、税理士事務所が経営者と適時・正確な記帳により作成された会計帳簿、月次試算表、決算書等の数字に基づき、対話をする事です。経営者の言葉に傾聴し、課題や戦略を整理する。親身の相談相手となり、時には説得をする。AIには決してできない、人間だけができる仕事なのです。

 

 

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