レビュー『不可能を可能にする 大谷翔平 120の思考』
- 内田
- 2023年11月4日
- 本
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誰もが認める野球界のスーパースター大谷翔平の思考、ということで読んでみました。
「13 変えなきゃいけないと思いました。今までの大事な試合で勝ちきれなかったのは自分の中に足りないものがあったからです。」
大谷は自罰的な思考の持ち主だ。大一番でなかなか勝つことができない理由を自分の中に探し続けてきた。他罰的では成長がない。乗り越えるべき課題を前に、原因をほかへ求めるのは、自発的な行動を放棄することを意味している。子どもの可愛らしい甘えとは異なり、マイナスの要素を周囲に振りまきながら行う、大人の甘えである。
「20 今は、周りに何を言われても何も感じません。どちらかに絞るという感覚もありません。」
大きな夢を叶える前に、未知の領域に挑戦したかった。高校から直接のメジャー挑戦を志し、当初は応じなかったファイターズとの入団交渉。球団から二刀流での育成を提案され、大谷の心が動いた。「誰ものやったことのない結果がついてくれば、ピッチャーとバッターを両方やってよかったと思えますし、そこを求めてやっていきたいと思います。」根拠のない出来る自信ではなく、出来るようにする。
「29 メンタルを切り替えるためのきっかけを常に求めている部分はあるかもしれません」
大谷は読書の習慣もあり、小説、ビジネス書から漫画まで幅広く愛読している。大谷は自身をマイナス思考と分析する。読書は心の財産。本、映画など野球以外の様々なジャンルに接しながら、迷いから脱出する方法を模索する。そこには今の自分と照らし合わせ、進むべきヒントが隠されている。
「36 技術も筋力がないと出来ません。僕にはより必要になるんです。」
大谷が持って生まれた身長193㎝の体格を思い通りに操るには、体に見合う筋力をつけることが重要だった。疲労の蓄積でシーズン中盤からパフォーマンスが落ちる点の克服、そして理想のフォームに到達するには筋力の必要性を感じていた。体重増で膝のケアに気を配ることも必要となるが、自分には何が足りないのかを常に模索する姿勢も挑戦へつながる。
「49 そうすれば、ベストの自分が出てくる。」
自分の可能性にかけている。見つけたいもんがあるからこそ、努力を続けられるのだ。大谷にとって、それは「新しい自分」「違う自分」。それらを自覚していない「自分」だが、もう一つ現在進行形で実感が出来る「ベストの自分」がある。人は自分自身をなかなか裏切れない。大谷の発言の中に「自分」という単語が多い理由は、常に内面と向き合っているためだ。栗山英樹監督も”自分自身との約束は絶対に守らなくてはいけない”という信念がある。大谷は監督より開幕投手を言い渡されたとき、日本一になることを自分自身と約束するように促された。
「59 あそこで打つ内川さんはさすがです」
マウンドにいる時、打席に立つ時、そしてベンチにいる時間。二刀流の大谷にとってその全てがステップアップのきっかけをつかむチャンスである。オールスターの際に、球界きっての好打者から学び取りたい。「見ててすごいと思ったことは取り入れていきたい」、見るもの全てが日々是勉強。謙虚な姿勢が多くの情報を目に映してくれる。
「65 イラっときたら、負けだと思っています」
20代にして、すでに大人の風格を身に着けている。負けず嫌いでストイック。お酒を飲んでハメを外すことは無く、睡眠時間は1日7時間を確保する。年俸はサラリーマンの生涯年収を既に稼いでいるが、お小遣いは月10万円。声を荒げて他人に怒ることはなく、笑顔を絶やさない。「イラッときたら負け」。対処法は、大人でもなかなか出来ない領域。セルフコントロールが大谷メンタルを支えている。
「71 他人がポイっと捨てた運を拾っているんです」
経営者であれ、スポーツ選手であれ、究極までやり尽くそうとすると、掃除に向かう傾向が強い。逆に言えば、掃除をおろそかにする一流はいない。大谷は高校時代から、当時の目標「160キロ」「8球団からドラフト1位」にたどり着くために必要な要素として「ゴミ拾い」を挙げていた。プロ入り後は2014年に引退した稲葉篤紀のゴミ拾いが手本になった。技だけが優れていても、一流になれない。ちっぽけなゴミ一つにも人生観が繁栄される。
「81 自分自身が日本一の取り組みをしなくてはいけないと思っています」
「日本一になる」という約束を2度、交わしたことがある。1度目は高校生の時。チームとして甲子園で優勝することを目標とし、そのためには何をすべきかを考え、まずは取り組む姿勢、内容を日本一に充実させるべきだと考えた。2度目は2016年2月6日。故・ベーブルース氏の誕生日に監督室へ呼ばれ、栗山英樹監督から手紙を書くように言い渡された。「今年、日本一になります」1度目の約束は実現できなかったが、2度目の約束は果たした。まだ見ぬ未来でも、大谷はきっと自分の約束を実現しようとするはずだ。
「103 先入観は可能を不可能にする」
高校時代に「好きな言葉」として挙げたフレーズだ。これは伝説のボクサー、故・モハメド・アリ氏による名言の一説「不可能とは、自力で世界を切り開くことを放棄した臆病の言葉だ。不可能とは、現状に甘んじるための言い訳にすぎない。」大谷にとっては、岩手・花巻東時代の指導者・佐々木洋監督に伝授された言葉だという。アリ氏の名言には続きがある。「不可能とは可能性だ」。未知の領域に挑戦し続ける大谷はそれを体現している。
「107 好きでやっていることなので、基本的には何を言われても気になりませんでした。」
ファイターズは、個々人に合った育成プログラムを実施することも強みだが、大谷に関してはともに手探りしながら、調整方法を確立してきた。大谷は調整法が難しいとは口にしても、決して苦しい、つらいという言葉は発してこなかった。自分がやると決めたこと。苦しかろうが、つらかろうが、やり続ける。決断するとしたら、その先に見えた未来で決めればいい。
「120 僕は、もっともっと、出来ると思います。」
誰よりも、自分が自分に期待をしている。その期待を裏切りたくないからこそ、走り続けることが出来る。理想が高ければ高いほど、苦しみは大きい。「日本一の取り組み」を目指すだけに「納得いかないことはたくさんあります。練習しかない」とさらなる修業を積むつもりだ。大谷の「もっともっと」をこれからも長く、見続けられる我々は幸せだ。