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【本】レビュー『勝負眼』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勝負眼』文藝春秋 藤田晋

仕事も人生も運に左右されるが、最終的には努力を怠らなかった人が生き残っていく。経営者も短期的に運が良いだけでうまくいく人もいるけれど、調子に乗って本物の実力をつける努力を怠れば長くは続かない。その理由は生んで勝っているにもかかわらず、それが自分の実力だと勘違いしてしまうから。勝てなくなった時に「本来の自分じゃない」と現実を受け入れられず、ズルズルと負けが込んでいってしまうのだ。

ガラケーからスマホへ移行が始まり、普及率が15%くらいになった頃。渋谷や港区界隈ではもっと普及率は高く、「ここから先はあっという間に広がる」、でもその「チャンス」は一瞬だ。そこを逃さず、私はサイバーエージェント全体のスマホシフトを掲げ、あらゆる部門から優秀な社員を異動させて大号令をかけた。その名も総張り戦略「あらゆる経営資源を投下し会社を改革するつもりで新しい市場に挑戦しよう、この大勝負に勝てれば会社は飛躍するはず」。この時は主力の広告代理店部門のトップもスマホの新規部門に異動させ、ゲームやコミュニティサービス、広告、eコマースなど、スマホに関連するやれることを全てやることにした。結果、サイバーエージェントは大躍進を遂げた。

私は大学生の頃、麻雀界のカリスマ桜井章一さんの雀鬼会に通い詰めていて、麻雀だけでなく、人生やビジネスに通じる大切なことをたくさん学んだ。そこで特に大事だと学んだのは「何が起きても自分のせい」という姿勢だ。会社を経営していると、本当に色んなことが起こる。麻雀と一緒でビジネスの世界では、誰もが理不尽な確率や偶然に左右される。そんな中、経営者は「言い訳」をしようと思えば、いくらでもできてしまう。「景気」「競合他社」「社員がちゃんと働かなかった」・・・でも、そんな言い訳ばかりをしている人の会社に投資をしたり、働いてみたいと思ったりする人がいるだろうか。何があっても全てを自分で引き受ける、そんな姿勢の経営者だけが、あらゆる事態に対して粘り強く対応し、事業を継続していくことができる。

ある経営や事業について失敗したことが分かった時、負けを認めて損失を確定することはとても価値ある事だ。サイバーエージェントは新規事業をバンバン立ち上げてきた会社である。でも私としては「事業を新しく始まることよりも撤退を決めるほうが大事だ」「撤退基準があるから新規事業が始められる」ということを、口癖のように言ってきたし、社内の制度にも盛り込んできた。ある一定の基準「2四半期連続で減収減益」などに引っかかると、審議にかけられ、撤退するか改善するかどちらかを判断する。ドン・キホーテ創業者安田隆夫さんが言うように運を最大化すべく不運な時には無駄な悪あがきをせず守りに徹し、幸運期には全力で攻めるという緩急が、個人・組織にとって大切だ。

他者の経営者から、サイバーエージェントの社員のモチベーションが高いことを羨ましがられることがある。根底に流れるのは私や副社長の日高が自分たちに課してきたように、夢や理想でなく、下から火で炙られるような感覚であること。それを組織運営の中で創意工夫して盛り込んでいる。火で炙るのは強火にしたり、弱火にしてみたり、様子を見ながら加減を調整していた。余裕があると強火にして追い込む、一方でやり過ぎると糸が切れそうな所もあるので、そういう時は弱火にしておく。そんな風に強火と弱火を繰り返すようなマネジメントをしてきた感覚が、私の中にはある。

私がAmebaTVで行ったようにマイクロマネジメントも時に大切。以前、ユニクロの柳井正会長とゴルフをご一緒した時に、ラウンド後にコーヒーを飲んでいると「この後、荻窪店に寄って帰る」と仰っていた。「柳井さんが急に来たら従業員はびっくりしませんか?」と聞いたら、「いつものことだから」と。やはり、BtoCの優秀な経営者は自社サービスと顧客との接点から決して目を離さないのだ。

私は会社経営もサッカー・野球と同じようなものだと思っている。半分は守備の時間だ。失うものがないスタートアップはともかく、それなりの規模になれば、守りにも労力を注ぎ、相応のコストも払わなくてはならない。売上、利益を伸ばすことがオフェンスだんとして、ディフェンスはあらゆるリスクから身を守る事。企業におけるリスクとは、戦略上のリスク、財務上のリスク、システム不具合、訴訟、事故、不祥事、災害・・・いくらでもある。リスクを完全に封じ込めるのは不可能だ。でも、出来る限り未然に防いだり、ダメージを軽減させたりすることはできる。サイバーエージェントでも徹底してリスクの芽を摘み、12年ほど前に社内アイデアから「GEPPO」というツールを作った。毎月1回、全社員がとても簡単な設問に答える→例えば「ご自身の調子やコンディションはどうですか?天気で教えてください。」「あなたのチームの調子やコンディションはどうですか?天気で教えてください。」とかそんな感じだ。答えを人事で集計し、それが役員会に持ち込まれる。上司に言いづらいことを直接経営陣に相談出来たり、問題が起きた時に誰でも声を上げる機会が月一であるというところがすごい。これが存在すること自体、不正や問題の隠ぺいを防ぐ強い抑止力となるのだ。

  • user 内田
  • time 2026年10月10日
  • tag 本
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